主知らぬ香こそにほへれ秋の野に誰が脱ぎかけし藤袴ぞも
素性法師 – 古今和歌集 241
主はわからないが芳しい香りが漂っている。秋の野にいったい誰が脱ぎ掛けた藤袴であろうか。
主知らぬ香こそにほへれ秋の野に誰が脱ぎかけし藤袴ぞも
素性法師 – 古今和歌集 241
主はわからないが芳しい香りが漂っている。秋の野にいったい誰が脱ぎ掛けた藤袴であろうか。
惜しめどもとまらぬ春もあるものをいはぬにきたる夏衣かな
素性法師 – 新古今和歌集 176
行かないでくれと惜しんでも留まってはくれない春があり、来てくれと言いもしないのにやってくる夏がある。しょうがなく衣替えをした。
※「(夏が)来る」と「(夏の衣を)着たる」が掛けられている。
冬を浅みまだき時雨と思ひしを絶えざりけりな老の涙も
清原元輔 – 新古今和歌集 578
冬になって日が浅いのにもう時雨が降るのかと思ったけれど、絶えず落ちていたのだな――老いを憂えて流れる、私の涙も。
日暮るれば逢ふ人もなし正木散る峰のあらしの音ばかりして
(源)俊頼朝臣 – 新古今和歌集 557
日が暮れると逢う人もない。正木の葛を散らせて吹く、峰の風の音ばかりして。
風ふけばよそに鳴海のかた思ひ思はぬ波に鳴く千鳥かな
藤原秀能 – 新古今和歌集 649
風に流され、遠く離れてしまった身となって、鳴海潟を偲びながら、見知らぬ波間で鳴く千鳥よ。
※「よそになる身」、「鳴海の潟」、「片思ひ」がそれぞれ重ねられている。
山賤のあさけのこやにたく柴のしばしと見れば暮るゝ空かな
藤原定家 – 拾遺愚草 (秋日侍 太上皇仙洞同詠百首應製和歌)
木こりたちが朝食のために焚く煙を、ほんの少し眺めていただけなのに、気がつけばもう日が暮れてゆく。
足引のこなたかなたに道はあれど都へいざといふ人ぞなき
菅贈太政大臣(菅原道真) – 新古今和歌集1690
山のあちらこちらに道がある。しかし、私に向かって「さあ、都へ帰りましょう」と言ってくれる人はいない。
秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜は更けぬとも
柿本人麿 – 新古今和歌集333
秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れながら、あの人の許へ通うことができたらいいのに。たとえ、夜が更けてしまったとしても。
野辺ごとにおとづれわたる秋風をあだにもなびく花薄(はなすすき)かな
八条院六条 – 新古今和歌集350
あちこちの野辺を訪れて吹く秋風に、移り気にもなびく花薄であることよ。
※「秋(風)」が「飽き」にかけられている。
晴るる夜の星か川辺の蛍かもわが住む方に海人のたく火か
在原業平朝臣 – 新古今和歌集1589 (伊勢物語 第八十七段)
あの光は、晴れた夜の星だろうか、川辺を舞う蛍だろうか。それとも、私の住む芦屋の里で漁師たちが焚く火だろうか。